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最高裁判所第三小法廷 昭和48年(行ツ)69号 判決 1974年6月28日

東京都渋谷区松濤二丁目一番八号

上告人

福田貞雄

同所同番同号

上告人

福田たか

東京都豊島区千川町一丁目二四番地

上告人

福田吉雄

東京都新宿区西落合二丁目二番一二号

上告人

福田仲子

右四名訴訟代理人弁護士

井上峯亀

渡辺数樹

吉田裕敏

東京都豊島町西池袋三丁目三三番二二号

被上告人

豊島税務署長

佐藤七郎

右当事者間の東京高等裁判所昭和四五年(行コ)第六四号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四八年三月一二日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人井上峯亀、同渡辺数樹、同吉田裕敏の上告理由第一点について。

相続税法二二条の規定が「時価」の算定を課税庁に一任したもの、又は一任したと同視すべきものであると解することはできず、したがつて、所論違憲の主張は前提を欠き、また、同条の規定が所論申告納税方式に反するものとはいえない。論旨は、採用することができない。

同第二点について。

原審の確定する事実関係のもとにおいて本件審査裁決における所論A部分の評価が適正であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。そして所論の点について所論B通達が所論A通達を実質的に変更しているものでないことは原判示に徴して明らかであるから、B通達がそれ以前の取扱いを不利に変更したものであることを理由とする所論違憲の主張は、前提を欠く。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 江里口清雄 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 高辻正己)

(昭和四八年(行ツ)第六九号 上告人 福田貞雄 外三名)

上告代理人井上峯亀、同渡辺数樹、同吉田裕敏の上告理由

争点と事実の概要

(1) 本件は上告人等の相続税課税について、上告人等は従来行われてきた国税庁昭和三九年分相続税財産評価基準(甲第一号証一、二)に従い、第一審判決摘示のA部分の貸地所有権価額を自用地価額の二割(借地権価額の八割)として、またA部分に隣接し自用地価額の等しい部分の貸地所有権価額を自用地価額の二割(借地権価額の八割)として納税申告をなした。これは昭和三二年一月一日以降は各税務署長は相続財産の内土地については借地権と貸地所有権価額の算定に当り、地代の多寡に関係なく常に自用地価額を基準として一定の割合で算定し課税されていたためである。

(2) 被上告人は前記B部分の所有権価額については、曾つて借地権取得代金が上告人の先代に支払われ且つ通常の地代が支払われているため、上告人等の貸地所有権価額による申告を認容したのに反し、A部分の貸地所有権価額については、借地権取得代金が上告人先代に支払われておらず且つB部分に比し高額の地代が支払われていることを理由として借地権割合を零として、自用地価額全額を貸地所有権価額と認定し相続税を課税した。

(3) 右課税に対し上告人等は東京国税局長に対し、A部分とB部分の貸地所有権価額が著しく公平を失することを理由に審査請求をしたところ、同局長はA部分の貸地所有権価額を自用地価額の八割(借地権価額は自用地価額の二割)を裁決した。

第一点

(一) 相続税法第二二条は憲法第八四条に反し無効であるが故に本件相続税課税処分は無効であり、取消さるべきである。

我国における国税の納税については、旧憲法施行以来一貫して、国税通則法(以下単は通則法と称する)第一六条に規定されている賦課課税方式によつていたが、昭和二五年シヤープ博士の勧告により原則として申告納税方式に改められた。

賦課課税方式は納付すべき税務署長又は税関長の決定処分により確定する方式であつて、納税申告は単に課税庁の調査決定の参考資料に過ぎなかつたのである。これに反し申告納税方式は通則法第一六条の定めるとおり、納付すべき税額は納税者の申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律に従つていなかつた場合、その他当該税額が課税庁の調査したところと異なる場合に限り課税庁の決定処分により確定する方式であつて、納税者の所得について課税標準及びその計算、申告、納付還付等について前記のとおり法律を改正し、納税者が正確に且つ容易に納税申告ができるよう詳細な規定を設けている。即ち所得税法においては第二一条乃至第二二〇条、法人税法においては第二一条乃至第一四七条に詳細に規定されている。

相続税もまた申告納税方式を採用しているから、相続財産の価額算定についても、前記所得税及び法人税と同じく法律により相続税財産評価基準を設け、納税者に正確な自主的申告を容易且つ明確にすることは、租税公平の原則と憲法第八四条に適合するものである、現行相続税法第二二条の如く相続財産の九割以上を占める財産の価額は「時価」によるものとし、「時価」の算定を最終的には課税上級庁の通達に基づき税務署長において決定することは、右憲法の租税法律主義に違反するのみならず、申告納税方式にも著しく違反するものである。

(二) 仮りに一歩を譲り、相続税法第二二条には「時価」により算定するが故に、右憲法に違反するものでないとするも、このような解釈は全く誤つた形式論と言わねばならない。即ち時価は客観的性質を有するが、納税者にとつては極めて抽象的な規定であつて、所得税法において単に「個人の所得」に対し、また法人税法において「法人の所得又は利益」に課税すると規定するに等しく、納税者は具体的に「時価」の算定につき見解を異にするのが通常である。従つて実際には納税申告に当り、税務署長に対しその認める価額を調査して、その指示する価額に従い申告しなければ前記のとおり過少申告加算税を課せられる結果となる。これは「時価」の算定を実質的には、同条により包括的に税務署長に一任したものと断定せざるを得ない。

国税について法律により課税庁に一任することが憲法第八四条に違反することは、学税の一致するところであつて、本件相続税課税は右(一)及び(二)の点よりしても、右憲法に違反するが故に原判決は破棄さるべきである。

第二点

憲法第八四条には租税法律主義を明定し、当然の結論として租税法規は勿論、課税に関する課税庁間の通達もまた納税者に不利を招く不遡及の原則は厳守されなければならない。

本件相続税課税に当り、A部分の貸地所有権価額算定について、少なくとも昭和三二年以降より、地代の高低に関係なく専ら土地の自用価額を基準として借地権価額の割合を定め算定していた行政事例に反し、且つ昭和三九年四月二五日付「国税庁通達直資五六、相続税財産価額に関する基本通達」(以下B通達と称する)(乙第三号証の三)により、相続開始当時の同年一月一一日に遡及して前記行政事例を上告人に不利に変更した課税決定処分であるから、前審判決は憲法第八四条に違反し破棄さるべきである。

前審判決は「前記B通達以前においても、特殊の場合には相続財産の価額算定について、昭和二六年一月二〇日付「直資一-五富裕税財産評価事務取扱通達」(以下A通達と称する)(乙第四号証の二)により算定された旨判示するが、著しく事実に反する。証人外山喜一の証言並に昭和四七年一二月四日付被上告人の準備書面によれば、前記A通達はB通達により廃止されると同時に、相続財産の土地評価については、B通達により、昭和三九年一月一日に遡り適用されることを明記している。またA通達による本件A部分の地代の高低による貸地所有権価額算定の如き事例は一回もなかつたことは、被上告人の自白するところであり、また本件A部分貸地所有権価額の決定が昭和四一年であることを考えれば、前記A部分の貸地所有権価額はB部分と著しく公平を失するのみならず、昭和三九年四月二五日付B通達に基づき、昭和三九年一月一一日に遡つて上告人に不利な価格を以て算定されたことは極めて明白であつて、憲法第八四条に反する不当な課税であるから前審判決は破棄を免れないものである。

以上

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